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Channel: ドラゴンの抽斗 ブラック企業アナリスト新田龍が語る「はたらく」「しごと」「よのなか」
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ワタミ会長のブラック告白と、その奥にある本当の問題について。

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ワタミ創業者の渡邉会長が参院選比例代表で出馬することを
表明し、「ブラック企業の社長が…」など、いろいろと
盛り上がっている。

まずワタミがブラックかどうかについて簡単に証明しておこう。
渡邉氏がブログで

「(ワタミの残業時間)月平均は38.1時間」
「36協定で定めた上限45時間を下回っています」

と明記しているが、36協定における残業時間の「年間上限」は
360時間。本人申告通りだと38.1×12=457.2時間となり、
明らかに労基法違反となる。
はい、ブラック~

まあ厳密には「特別条項」を適用して労使で合意すれば
年720時間までOKになるが、あくまで臨時的措置であり、
「特別な事情を明確に定めその範囲内で」やらねばならない。
常態化していてはダメな決まりだ。

法的にはアウトとして、そもそも何が問題なのか。
ネット上で同社をブラックだと騒いでいる人たちの多くは、
過労自殺者まで出した同社の劣悪な労働環境を指摘している
論調が多い。
でも、私としてはそれだけだと問題を見誤る可能性が高い
考えている。

たとえば、同じように居酒屋を運営している会社で、同社以上に
ハードワークが常態化している会社を私はいくつも知っている。
しかし、その会社が名指しで批判されることはあまりない。
会社規模の違いはもちろんあろうが、それ以前の根本的なところ
に問題があるのだ。

たとえば、氏の発言にはレジェンドのごとく語り継がれている
ものがいくつかある。

「どれだけきつく叱っても大丈夫というのが信頼関係の
 バロメーター」
「ビルの8階とか9階から、『今すぐここから飛び降りろ!』と
 平気でよく言う」
「自分を犠牲にしてでも働くべき。残業代のような小さいことを
 言っているような人間はどうかと思う。少なくとも私は自分を
 犠牲にしても何事も取り組んでいる」
「途中で止めてしまうから無理になるんです。鼻血を出そうが
 ブッ倒れようが、とにかく一週間全力でやらせる。そうすれば
 その人はもう無理とは口が裂けても言えないでしょう」
「キミたちは起業家であり労働者ではない。常に自己管理し、
 苦しい環境に立たされたとき、どうすればその状況を改善
 できるか、自身で判断せよ。それができないのであれば、
 ワタミの社員としてやっていけない」

精神論的には賛同する人がいるかもしれない。
たしかに個人として自己を律していくための指針としてなら
問題ないのだが、組織マネジメントという観点で考えると
評価が異なってくる


人材マネジメントの手法として、従業員に「起業家意識を
持たせる」のはたしかに有効な方法であろう。
しかし、「起業家意識を持たせる」のと「実際に起業家扱いする」
のとではまったく意味が異なる。

あくまで社員は社員であり、職掌からも待遇・報酬面でみても、
起業家とは役割に差があるのだから。


渡邉氏は名実ともに起業家であり、起業資金をつくるために
自ら過酷な環境に飛び込んだ人物だ。佐川急便で1年働き、
300万円を貯めた(「300万稼いだ」のではなく、「300万貯めた」
のだ。この違いは大きく、氏のストレス耐性が尋常でないことが
わかる)。自分が経営する会社のためなら、何百時間の労働
だって苦ではないだろう。でも、雇われている社員にとって
同じ時間の労働はどんな意味を持つのだろうか。
社員目線で配慮できない経営者の会社は、ブラック企業だと
言われても仕方なかろう。

「起業家精神の持ち主なら」「仕事にやりがいを感じているなら」
「目標を達成するためなら」ハードワークは当然、という主張は
正論のようで、結局は経営者側の理論でもある。
「オレができたんだから、お前もやれ!」というだけでは
不十分だ。

そう考えると、問題は同社の「社内コミュニケーション」にある
ように思える。
経営方針の裏返しになるが、渡邉氏のこれまでの発言からは
「俺は自分の思ってることを、自分の言葉で言う。
 わからないヤツはいらない」
というニュアンスが個人的に感じられた。

実例として氏は教育機関での講話の際、中高生相手にも
かかわらず、社員向けの訓示的なトーンで話したことを
教職員に意見されたことがあった。
しかし、氏は逆に「学生相手だからといって手を加えるのは
本意ではない」
と聴き入れなかったのだ。

同様のことは、社内コミュニケーションでも当てはまるだろう。 
「経営者」、および「経営者視点をすでに身につけた社員」
に対してはすごく効果的な話であっても、相手によっては
まったく伝わらない、ということはあり得る。
コミュニケーションとはあくまで、相手が理解し、行動まで
落とし込めてはじめて「伝わった」といえるものだ。
どこまで「相手の立場にたったコミュニケーション」が取れて
いたのだろうか、と感じてしまう。

同社で以前起こった過労自殺事件に関して、過去同社で
人事に関わった人物はこのように言っていた。

「企業として求められる労務管理の現行法に照らすと、
 確かに課題はあったと想います。従業員としての雇用関係
 がある立場、使用者としての責任の担保としては不備も
 あったと思います。
 ミッションと、社会道義として遵守しなくてはならない要綱、
 これを同時達成する仕組み、制度を作ることが人事部門
 の責任だと思います。そういう意味においては、今回の
 悲劇を生み出した原因の根本は、人事に責任を負って
 いる人が、素人だったということに限ると思います」

いずれにせよ、同社は業界を代表する規模となった企業
として、社会的責任を果たさなければならない立場にある。
当然ながら、その位置に相応しいプロフェッショナルを
人事責任者に据えねばならなかった。
 
氏と現場をつなぐ管理職がどこまで役割を果たせていたか、
が問われるところだ。
氏の言葉を現場が理解できるように噛み砕く。一方で、
氏の行動にもフィードバックを提供できるような働きが
求められる。 


とはいえ、後者の役割は実際のところなかなか難しいだろう。 
会社がマチュアになるために必要なものだが、創業経営者に
とっては自身のパッションと相反することにもなるので、
折り合いをつけるのは明らかに困難だ。
 
しかも、氏の考えは一貫して明確であるため、いくら意見を
具申したところで「お前は何もわかってない」などと突き返される
可能性もある。ここを乗り越えられるかが、ブラックかそうで
ないかの境目かもしれない。

実際、同社より厳しい環境でも従業員がモチベーション高く
働けている組織では、その辺の管理職の働きや組織内
コミュニケーションが秀逸であるパターンが多い。この点に
ついては、また回を改めて述べていきたい。

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