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Channel: ドラゴンの抽斗 ブラック企業アナリスト新田龍が語る「はたらく」「しごと」「よのなか」
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みずほFG行政処分の影響… 次はローン業界の番だ(1)

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年末も押し迫った昨年12月26日、みずほ銀行は金融庁から
一部業務停止命令を受け、持ち株会社のみずほフィナン
シャルグループの塚本隆史会長が辞任に追い込まれた。


これは昨年9月に明らかになった、暴力団関係者らへの
融資問題をめぐってのものだ。


同行をめぐっては、これまでさまざまな不祥事が報道されてきた。
普通の企業であれば不祥事が続けばそれを反省材料とし、
社内体制を一新するなどして問題を根源から解決し、多少なり
とも改善の兆しが見えてしかるべきである。

しかし同行ではそうなっていなかった。
同行行員の間には

「自分には関係ない」
「直接的に責任を被る立場にない」


といった雰囲気が全体に広がっており、内部ではなかなか
気づかぬうちにモラルハザードが深刻化していったためと
考えられる。その結果として、金融庁から業務改善命令を
受ける事態にまで発展した。

当事件についてはすでに各メディアでも多く報道されているので、
本稿では今回の行政処分が及ぼす影響について考察して
いきたい。

あまり報道されていないが、業績や事業そのものの存続レベル
の影響を受けるのは、実は銀行自体ではなく、業務提携
しているローン会社や、その顧客企業であったりする
のだ。

まずは本事件の概要を振り返ってから、今後の影響を
考えてみよう。


(1)そもそも、銀行が暴力団員へ融資した経緯 

みずほ銀では、同行グループの信販会社、オリエントコーポ
レーション(以下、オリコ)を通して、自動車や宝飾品などの
購入代金を顧客に融資する提携ローンを取り扱っている。
融資の審査はオリコ側でおこない、その段階で問題ないと
判断すれば、みずほ銀が融資する仕組み。

今回は、このオリコの審査で暴力団関係者を排除することが
できず、融資が実行された。


(2)なぜこのような仕組みが存在しているのか

銀行が直接融資するのに比べて審査の結果が早く出るため、
顧客にとって便利。またオリコの保証があるため、みずほ銀に
とっても貸し倒れになる危険がない。


(3)なぜ暴力団員向けの融資がオリコの審査を通ったのか

オリコが審査のために用いている顧客情報の中に、暴力団
関係者のデータが整っていなかったため。また提携ローンは
契約後でないとみずほ銀行は顧客情報を得られない仕組み
であった。

オリコは取引情報を定期的に同行に伝えており、同行が
顧客情報を事後審査したところ、暴力団関係者が含まれて
いることが発覚した。


(4)みずほ銀側の一連の対応は、何が問題なのか

・暴力団への融資は、それ自体が極めて悪質な行為であること
・提携ローンの仕組み自体も問題ではあるが、不適切な事実を
 認知した時点で即座に契約解除できたのに、経営陣は問題を
 把握していながら金融庁の指摘を受けるまでの2年間放置
 していたこと
・金融庁に虚偽の説明をしており、業務改善命令から10日以上
 も経ってから肝心の点の説明を一変させ、隠蔽の疑いを
 持たれたこと

経営層に情報が届けられてもなお自浄作用が働かないのでは、
不祥事を防ぐのはそもそも困難である。


(5)このような顛末になってしまった、みずほ銀ならではの
  事情とは

オリコには、旧第一勧業銀行出身者が社長に就任する
という不文律があった

またオリコとみずほ銀にとっては小口の取引であるため、
当事者意識が働かなかったことが考えられる。
取引の事実を知らされた当時の経営陣も、「次回から契約を
承諾しないように」とオリコに求めただけで、取引停止などの
対応を取らずに先送りしてしまった。


(6)今後顕在化しうるみずほ銀の問題点とは

そもそも会社法では、取締役らに経営上の「善管注意義務」
が課せられている。善管とは「善良な管理者」のことで、
「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」
と定められている。したがって取締役は「会社に損害を与えない
ように注意を払って行動する」義務があるのだ。

もし会社で何かしらの不祥事が発覚し、株主代表訴訟などで
「善管注意義務違反に当たる」と認定されれば、取締役
個人に対して損害賠償を命じられる
ことになる。

同行の場合、前出の隠蔽工作が「積極的な善管注意義務違反」
に当たり、歴代の経営陣たちが巨額の損害賠償を請求される
可能性がある
のだ。

たとえ直接担当していた役員以外が問題の存在を知らなかった
としても、「不作為に注意を怠った」=「取締役としての職責を
果たせなかった」、として他の役員も善管注意義務違反に問われ、
同じく賠償責任を負う可能性が出てきた。

「取締役の不作為が善管注意義務違反に当たる」として
賠償責任が認められたケースは過去にも存在している。

ひとつは11年に発覚したオリンパスの巨額損失事件だ。

この事件では、歴代の経営陣のみならず、損失隠しの認識が
ないまま「損失隠しに利用された高額な買収案件を決めた
取締役会決議に賛成した」ことを「不正を防げず、取締役
としての注意を怠った」として、「見過ごし」でも善管注意義務
違反が認定された。結果的に、19人の役員は一人当たり
1億1000万~36億1000万円を請求されることとなった。

このほかには、外食チェーン・ミスタードーナツの肉まんに
食品衛生法違反の添加物が混入されていた事件
がある。

親会社のダスキンの担当専務らが中心となって事件を
会社ぐるみで隠蔽したことが「取締役の善管注意義務違反
に当たる」として、株主が取締役や監査役に106億2400万円
もの支払いを求めて提訴。

大阪高裁は「直ちに事態の深刻さを認識して公表すべき
だったのに、事実を隠蔽して会社の信用を著しく傷つけ、
消費者の信頼を失わせた」として、発売時は違反の事実を
知らなかったとされる取締役員らも含めた13人に53億4350万円
の支払いを命じ、判決が確定した。

そして今回のみずほ銀のケースは、同行が金融庁に問題の
資料を提出しなかったという点で、ダスキンのケースよりさらに
悪質
であるといえる。

金融庁が業務改善命令を出して以降、同行の株価は下落し、
株主は損失を被っている。歴代経営陣が善管注意義務違反で
100億円単位の株主代表訴訟を起こされる可能性は充分
ありえる
のだ。


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